カネコアヤノさん、Fuzzをつくる

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カネコアヤノさんがELECTROGRAVEアトリエにてFuzz製作ワークショップに参加されました。カネコさんが製作したFuzzはワークショップメニューで扱っているExperimental Fuzz MkIIというモデルです。設計はELECTROGRAVEオリジナルで、波形変形を用いて過激な音色変化を連続的に変えることができるコントロールを備えています。ゲインは非常に高いですが感度調整によりRipper Fuzzのように弦に触れた瞬間音を出す設定も可能です。

まずは全体の工程の説明の後に、エフェクター製作でもっとも重要な作業の一つ、半田づけのトレーニングをやっていただきます。半田づけについて正しい知識をしっかり習得していただくために、プロジェクターで半田づけの動画をご覧いただきながら大切な手順を反復して説明します。説明の区切りの度に「ハイ!」とカネコさんの声が返ってきます。生き生きとした返事には半田づけ習得に向かうやる気が満ち溢れています。半田づけのトレーニングはRipper Fuzzの基板に抵抗器を実装することで行います。抵抗の足を指で曲げ、基板に挿入し、半田づけ。これを何度か繰り返しながらその出来栄えを確認します。ある程度慣れてきたら本番に移行するのですが、トレーニングの段階ですでに基板への実装が大変綺麗だったことがとても印象的でした。どの抵抗器も真っすぐに、基板との隙間なく綺麗に実装されていたのです。カネコさん曰く、細かい作業が好きで細部にもこだわってしまう、とのことです。流石です。トレーニングは早々に済ませ、早速本番にいきましょう。ちなみにトレーニング基板はチェーンホルダー用の穴をあけてありますのでキーホルダーにもなります。

半田づけトレーニングの様子、スタッフの伊藤さんもトレーニングに挑戦していただきました

今回製作するExperimental Fuzz MkIIは2枚の基板で構成されています。一枚はこのFuzzの機能を実現するための重要な回路が実装される「メイン基板」、もう一枚はフットスイッチを実装する「スイッチ基板」と呼んでいます。メイン基板とスイッチ基板を耐熱スポンジに乗せたまま基板上で最も背の低い部品、抵抗器を最初に実装していきます。お渡しした図面を見ながら、カネコさんは丁寧に抵抗器のリード線を指で曲げながら基板に挿し込んでいきます。練習基板のように真っすぐに抵抗器が次々と挿し込まれていきます。抵抗器の挿し込みが終わったら一度図面と見本基板と見比べて間違いがないか確認します。全て正しく挿し込まれていたので半田づけをしましょう。半田づけの手順は動画で見た内容を復習しながら進めていきます。カネコさんはすごい集中力で「楽しい~!」と言いながら次々と半田づけを進めていきます。その日一緒にご来店されたベーシスト本村拓磨さん(ゆうらん船、Hedigan’s、NOT WONK、そしてカネコアヤノさんとのデュオ)はカネコさんの背後でQuad Oscillatorでノイズを出して遊んでいます。カネコさんの集中力と楽しそうに奏でられるノイズで加速する緊張感の中、抵抗器の半田づけは問題なく終わりました。半田ごての扱い方、半田の量、どれも絶妙です。素晴らしいです。

カネコさんの背後でQuad Oscillatorで遊ぶ本村さん、緊張感溢れるBGMになっています

抵抗器の実装の次はIC、コンデンサと背の低い順に次々と半田づけを進めていきます。抵抗器の半田づけの過程を経て、工具の扱い方にも大分慣れてきたようです。適度に休憩しながらで大丈夫ですよ、とお伝えしましたがカネコさんの手は止まりません。このあたりで本村さんギター生演奏によるイントロクイズが開催されます。ときにおこる爆笑の中でもカネコさんは手を休めることなくノンストップでガンガン進めてきます。最高です。超集中力もあってか気が付いたらメイン基板とスイッチ基板が完成していました。では、この二つの基板をリード線で結線しましょう。リード線の皮膜を剥いて予備半田をします。この作業を行うことで仕上がりが良くなるだけではなく、近くのパターンとの接触トラブルも防げます。作業は増えて少し遠回りになるけれど、結果として工程はトラブル無くスムーズに進みます。「急がば回れ」というやつです。ちなみに僕は「急いで回らず」によって想定外のトラブルを引き起こし予定の何倍も時間を浪費した経験が多くあります。多くの分野に共通する名言だと思いますが、電子工作も例外ではありません。

カネコさんが製作した基板、完成度かなり高いです

基板がある程度完成したところで、いよいよケースへの組み込みが始まります。まずはケースに電源ジャック、フットスイッチ、LEDを取り付けます。LEDは何種類か用意しており、いつもお好みの色を選んでいただくのですが、カネコさんは青のLEDを選択されました。徐々にエフェクターぽくなっていく様子をとても楽しく感じられているようで、そんな姿を見て僕も嬉しくなります。あっという間でしたがもう完成間近です。ポットと基板をケースに組み込む作業もなんなく終え、回路が問題なく動作しているか仮確認を行います。音が出た瞬間、「出たー!」嬉しい声が響き渡ります。仮確認が無事完了したので、最後の仕上げに電源ジャックとLEDの半田づけを行います。これが本当に最後の半田づけです。完成を目前にカネコさんはとても嬉しそうです。早く完成させて音を出したい気持ちがあふれるほどに伝わってきます。その気持ち、めちゃくちゃわかります。新作ができる瞬間、僕も毎回そんな気持ちです。

最後にお好みのつまみを選んでいただくのですが、まさかの「つまみついてないままでもイイ!」は衝撃的でした。ありのままをよしとするその感性がカッコよすぎると思いました。ただ、操作性を優先してとりあえずお好みのつまみをつけることにしました。

最後の工程、裏蓋のネジ締め

完成したExperimental Fuzz MkIIをアンプに接続し音をだした瞬間です、笑顔のチョーキング!

ご自身の手で作り上げたエフェクターをご自身の手で鳴らす、僕はこの瞬間が一番好きです。カネコさんが「最高です!!」と言ったときの笑顔は今も鮮明に覚えています。「明日、このFuzzを森道で使います!」と言っていたカネコさん、翌日本当に使ってました。大音量でした。最高でした。完成した時はまさに至福の瞬間なのですが、こんな楽しい時間が終わってしまうのかと思うと少し寂しくもあります。もっと色々お聞きしたいことはありましたが、またいつか、次の機会を楽しみにしています。

カネコさんの音楽を聴くと、心が軽くなります。感じていることをそのまま感じていいと思えたり、自分が生きていることと静かに向き合える瞬間が生まれたり、濁りなく高い透明度で表現された言葉と音の世界がそんな感情に繋げてくれるのかもしれません。製作を純粋に楽しみ、集中しているカネコさんの姿から、普段の創作活動に対してどのように向き合っているのか垣間見ることができたような気がします。僕は音楽を創ることも、エフェクター製作のように音そのものを創ることも、根底にあるものはとても近いものであると考えています。これは音楽に限った話ではなく、創り生まれるすべてをものに当てはまると思います。なにかが人の意思によって生まれる瞬間がとても好きで、エフェクター製作を通じてその面白さを発信することだと思い、ワークショップを行っています。

後日、カネコさんから「宝物Fuzzです!」とメッセージをいただきました。まさに嬉しすぎる宝物メッセージでした。